公益社団法人 日本介護福祉士会

TIME LEAP -介護の今と昔-

03 入浴ケアの変遷

この企画は、介護のあり方の変化に着眼し、昔の介護を振り返り、今の介護との違いを見直そうとするコーナーです。
解説は、「介護福祉経営士」情報誌 Sunにおいて「タイムトラベル~ケアの過去・現在・未来を探る旅」を執筆されている、神奈川県介護福祉士会所属の井口健一郎氏(小田原福祉会潤生園施設長)と風晴賢治前常任理事が対話形式で介護の昨今について語ります。
入浴は日本人にとって、楽しみの比重が大きい分野です。1日の生活の中で、毎日お風呂に入る人も多く、生活には欠かせない文化と言えます。今回は、『入浴』について振り返ってみましょう。

井口 健一郎 KENICHIRO IGUCHI

社会福祉法人 小田原福祉会 理事
特別養護老人ホーム 潤生園 施設長
神奈川県介護福祉士会所属
創価大学大学院卒業後、小学校教員を経て
2009年社会福祉法人小田原福祉会に入職
神奈川県認知症ケア専門士会理事
桜美林大学 和泉短期大学 非常勤講師

風晴 賢治 KENJI KAZEHARU

社会福祉法人 徳誠福祉会
障害者支援施設 徳誠園 施設長
日本介護福祉士会前常任理事
青森県介護福祉士会前会長
立正大学卒業後、身体障害者療護施設に生活指導員として入職
高齢者施設、地域包括支援センターセンター長を経て現在に至る。
青森大学非常勤講師
青森県社会福祉協議会代議員

入浴ケアの変遷

入浴の楽しみ

風晴

私のいる青森県は市街地でも至る所に温泉があり、まだ銭湯文化が残っています。早朝からやっている湯治場も多く、お風呂と言えば、天然温泉というイメージがあります。

井口

湯船に入り、のびのびすることでストレスの解消と衛生保持になります。湯船に入り体温を上げて、免疫力を高めることは日本の素晴らしい健康文化です。また、お風呂を楽しむことは、長寿の国の重要な生活文化ですよね。

風晴

施設利用者も同様で、お風呂を楽しみにしている方は多いのですが、入浴にかかる職員の肉体的労力や人手が必要となります。現在のように新型コロナウイルス感染症の影響により職員数が少ない場合等はやりくりが少々大変です。

井口

暑い浴室などで行う入浴介助は、職員にとっても負担は大きいです。しかし、ご利用者が入浴していてリラックスしている顔を見たり、普段なかなかゆっくり話す時間がない中、入浴という1対1で関われる時間を好きだと言ってくれる職員たちもいます。ただ、入浴については、身体的な距離も近いため、感染症のリスクもありますね。

入浴サービスの発展

風晴

通所系サービスの利用者でも、特に冬場は自宅での入浴は寒いということや、光熱水道費のこと等を考え、入浴が一番の目的でデイサービスに通う人が多くいます。

井口

高齢者の浴室におけるヒートショックでの死亡の事例も数多く発生しています。冬場で寒い部屋で着替え、お風呂に入る場合は、浴室のみならず、脱衣場も温めておかないとヒートショックが起きてしまいますが、自宅だとどうしても節電してしまう方も多いようですね。

風晴

デイサービスやショートステイの先駆けとして、井口さんのおられる潤生園では地域課題として浮上した入浴サービスから発展していったことをお聞きし、最初の第一歩はその地域で小さなボランティア活動から始まり、やがて自治体やマスコミが知り、その必要性を認めて国の制度に繋がっていく構図が明確に出た好事例だと感動しました。

井口

1970年代当時、在宅介護もまだ整っていなかった時代、当時の時田施設長が地域の介護の困りごとを一軒一軒聞く中で「お風呂問題」に直面します。当時は在宅介護サービスは低所得者や身寄りのないお年寄り中心の家庭奉仕員(ホームヘルパーの前身)が活動していましたが、まだまだ支援の手が足りず、それ以上に、結婚は「家同士のもの」「その家に嫁ぐ」という「家長制度」のなごりが一般大衆の文化にまだまだありました。とくに年老いた家族の介護は嫁がするものという風潮が当たり前でした。当然の如く、体に力が入らない人はとても重いです。そんな要介護高齢者を体の小さなお嫁さんが介護することはとても大変なことでした。

井口

当時の時田施設長が訪問した際には、「うちのおじいさん1年以上お風呂に入れていなくて」というお宅もざらだったそうです。また清潔の保持の観点からも清拭がやっとで褥瘡がある人がたくさんおられたそうです。そこで、ある提案をします。「うちには寝ながら入れる車もあります。寝ながら入れるお風呂もあります。日中はお迎えにあがりますから介護に慣れている専門職に任せていただけないでしょうか。おじいちゃんおばあちゃんも入居している同世代の方々と交流しながらくつろいでいただけます。施設の栄養価の高いお昼ご飯を一緒に取ってもらい、リハビリなどもしてもらいましょう」と地域住民の介護の困りごとを解消するためにボランティアで始めたものでした。

井口

また、「たまには家族も息抜きが必要でしょうから一泊二日で預かりますよ」とショートステイも始めました。こちらはテレビで大々的に取り上げられ、当時の厚生省がナイトケア事業を始める一つのきっかけになりました。「デイサービスはお風呂屋さんじゃない」と言われる方もいらっしゃいますが、デイサービスのきっかけはお風呂から始まったことは私は事実だと思います。西洋のような清潔を保つだけではなく、日本人にはお風呂は特別な意味があります。デイサービスがお風呂問題を解決するところから始まったのはいかにも日本的でいいなあとも感じています。

風晴

そういえば、通所サービスの利用者から異性介護の問題が浮上したことがありました。女性スタッフが男性利用者の洗体をするのに抵抗を感じる人はあまりいないように思いますが、逆に男性スタッフが女性利用者の入浴介助をすることに強い抵抗感を感じ、別の事業所に移った女性がいました。
シフトの関係や女性利用者の方が多いといった事情は有るものの、今思えば私がいた高齢者施設では、当時の女性利用者から異性介護への違和感が相談された記憶がなく、それは「仕方がない」という空気が漂っていたのではないかと今にして思います。

井口

これは制度上の問題ですよね。障害者施設は基本的には同性介助ですが65歳を過ぎたら性別はなくなるわけではないので、一律に誰でも入浴できるのではなく、しっかり利用者の主訴に合わせた個別ケアが必要になりますね。様々な場面で男性ご利用者は女性のケアワーカーがよい、女性ご利用者も女性のケアワーカーがよい。私もショートステイで同期が女性であったので、新人で慣れない環境でケアが未熟であることとともに残念な気持ちになったことを思い出しました。

風晴

私が特養にいた時の思い出で、毎回入浴を強く拒否する認知症の女性がいました。手をかえ品をかえ、いろいろな方策を試しましたが上手くいきませんでした。ある時、偶然嘱託医の回診と入浴日が重なり、「お医者様が今日来るので、きれいにしておきましょうね。」と言うと、「そうだわね」と拍子抜けしたように、あっさり入っていただけました。まさに琴線にふれた“魔法の言葉”だったんです。

井口

ある有識者は認知症ケアで一番難しいのが入浴介助で、上手に誘えれば一流の人と言っていたことを思い出しました。私も現場のケアワーカー時代、お風呂嫌いのご利用者にあの手この手でお誘いしました。「お風呂入らなくてもいいので足だけ足湯につかりませんか?」など(笑)中でも、たまたま潤生園に入所したうちのおばあさんの入浴嫌いはたくさんの職員さんたちを泣かせました。あの手この手で入浴を拒否し、「今日は体調が悪いからケホッ、ケホッ」て。明らかな仮病まで使っていました。そんな中、職員たちがカンファレンスを開いてくれたんですね。実はうちのおばあさんは40代からカツラで、孫の私ですら外した姿を見たことはなかった。本人の自尊心としてカツラがバレてしまうのがとても嫌だったんですね。職員たちは誘導のため、プロセスレコードをつけてくれて、たくさんのトライ&エラーをしてくれました。そういった中で若い女性の職員が「今日は二人きりで貸切風呂ですよー」と言ってくれたのが雪解けになり、それ以後、お風呂に入れるようになりました。うちの職員たちはさすがだなあと思いました。

風晴

私が地域包括支援センターに勤務していた頃、様々な理由から何年も入浴していなかったという人が何人かいました。一般の感覚では、「信じられない!」となりますが、当の本人は諦めているのか、慣れてしまったのか意外と平気なんですよね。「入浴しないで死ぬ人はいないが、入浴して死ぬ人はいる」とはよく言ったものです。
これも地域包括時代のエピソードですが、1人暮らしの女性が自宅で入浴中に浴槽から出られなくなり、次の日にたまたま訪ねてきた人に、10時間ぶりに救出されたということがありました。一つ間違えば、命を落としかねない状況でした。
また別の人は、ホームヘルパーさんの訪問時間内で家事援助をしている間に入浴している方もおりました。入浴中の事故は「タイムトラベル」の記事で井口さんが指摘していましたが、井口さんもおっしゃるように、かなりの件数があり、1人での入浴はリスクが高いですよね。

井口

たしかにヒートショックによる死亡例も後をたちません。施設の特殊浴槽については、安全面で開発者も取り組んでいますが、残念ながら、過去には死亡事故が起きていますよね。元々の特殊浴槽は、シャワータイプで清潔を保つために欧米で作られたのですが、お風呂というものは、日本人にとって清潔を保つだけではなく、特別な意味があるため、湯舟に浸かることも考えて設計されていますよね。それがかえって安全性の上でリスクを抱えることもありますよね。

風晴

施設では、週に何回、何時に入浴するかもたびたび議論になりました。国の基準では、最低週2回となっていますが、理想は好きな時、好きな時間に入りたいでしょう。夜間入浴を実施したり、入浴時間に幅を持たせている施設もありますが、やはり職員数や安全面を考えて、日中に実施している施設が多いと思います。

井口

週2回ってエビデンスはどこにあるのでしょうかね。清潔とリラクゼーション、ヒーリング入浴の効果、定義はまだまだ検討の余地がありそうですね。国は全国一律基準を作ることで後はその土地や施設の運用に応じたケアが求められます。ちなみに私はティーネージャーの頃は、カナダに住んでいました。欧米では朝シャワーを浴びる文化があります。日本の風土では、夜に体を温めて寝るという文化ですが、文化によって形式は異なりますね。私はカナダの習慣が抜けず、40代になっても朝シャワーを浴びなければ気持ちが悪いし、夜は体が冷えているからお風呂に入る。1日2回入る生活を日本に来てからずっとしています。(笑)東南アジアの国では湯舟に入る文化がない地域もあります。文化の面でもう一つ、日本ではあまり知られていませんが、アメリカには民間療法があって、胃腸が悪いと炭酸飲料を飲むことや普段はシャワーですが、風邪を引いたらお風呂に入る文化があります。もちろん、38℃を超えてまでの入浴は危険ですが、微熱程度であれば入浴をすれば体温も上がり、免疫力も上がることで体によいという考え方です。
日本の場合、戦後は銭湯が主流であり、家庭浴ができなかったという事情から、行きも帰りも外気で体を冷やし、且つ集団でお風呂に入るため、他の人に感染させてしまうリスクもあってよくないとされていたのだと思います。

入浴機器の変遷

風晴

その他に入浴介助で思いだすのは、20年くらい前に日本介護福祉士会を通して、ある介護・医療機器メーカーから、入浴器械の開発アドバイザーへの依頼がありました。多分、当時介護施設に勤務していた関係で選出されたと思いますが、私を含め3人の会員が約2年間委嘱され、数回東京へ出向きました。当時は施設での入浴が大浴槽に集団で入れる“イモ洗い”状態だったため、衛生面やゆったり気持ちよく入れていないということへの反省から、1人用のいわゆる個浴への転換が見直されていた時期でした。
依頼のあったその介護・医療機器メーカーでは、個浴のプロジェクトチームを作り、あらゆる角度から研究していました。そこに私たちが呼ばれ、実際に試作品を見てアドバイスしました。当時画期的だったのが、従来の固定式の特殊浴槽に比べ、軽量で移動できること、これは場所を取らないことになり、大掛かりな工事もいらず、大幅なコストカットに繋がります。また1回ごとにお湯を入れ替えるのですが、入れ替え時間も早く、今では当たり前の機能ですが、当時は目を見張ったものです。

風晴

さらに、人間ではなく器械が人間を洗ってくれる、自動洗体機の話題が出ました。これも今では特に珍しくはなくなりましたが、その時は「器械にやってもらうことを拒否する人が殆どではないか」とか、「人が手を掛けて洗うからこそ満足度に繋がるのではないか」とか、「他人に洗ってもらうのに抵抗がある人は、かえって器械に洗ってもらうほうがいいという人もいるのではないか」等様々な意見が飛び交いました。私は、「結局、利用者に選択してもらえばいいことではないでしょうか」と言った覚えがあります。現在では、状態によって選べる様々な機種が開発されていますね。
私たちがどのくらいお役に立てたのかはわかりませんが、メーカー側の真剣でかつ合理的なシステムを初めて垣間見て、非常に新鮮でワクワクしたことを懐かしく思いだしました。

井口

私も入ったことがありますが、初期の特殊浴槽は水圧の強いシャワーで、シャワーは痛いし、体が温まらない。(笑)「清潔のため」が主流でしたね。今では様々な実践が繰り返され、車いすのまま温泉に入れるものなど発明されていますね。ウルトラファインバブルなども一般的にはたくさん宣伝されていますね。私の知り合いの施設ではウルトラファインバブルを入れたが洗った気にならないと更に洗ってしまい、結局、体の表面を落としすぎてしまっている。などの声を聞くこともありました。

風晴

特殊浴槽(機械浴)といえば、同じ青森県内の療護施設で、30年くらい前に全介助の人も機械浴をやめて、一般浴に入れようと発起し、全員一般浴に入った時期がありました。その時は機械浴の部屋は物置と化していましたね。
また、いずれも県内の養成校を出て介護施設に勤めていたことがあり、ずっと以前から青森県介護福祉士会の研修等を何度も担ってもらい、若いころは時間を忘れて酒を酌み交わし介護論を語り合った青森県出身の『ケアプロデュースRX青山組』の代表で津軽弁バリバリの青山幸広さんという、介護の世界では結構著名な方がいます。NHKの「ためしてガッテン!」等にも出演したり、本も出版していて、ご存知の方もいらっしゃるのではないかと思います。その彼がこだわったのが、入浴でした。特に個浴、それも天然木の青森ヒバを特注して作った浴槽で、一時期ワゴン車にその浴槽を積み込み、天然木の個浴槽の良さをアピールすると共に入浴介助を伝授する為、全国行脚していました。研修はほぼ実技演習で、Tシャツ・短パン姿で皆ずぶ濡れになりながら受講していました。
今は浴槽に香りや色等季節感を感じる入浴剤も増えましたね。そういえば匂いと共に強烈な思い出として残っている入浴剤が私にはあります。いかにも薬品を思い起こさせる茶褐色の容器で、お湯に溶かすとパーっと白濁色に変化し、硫黄臭が広がります。当時、様々な効能があると言われ、一般家庭でも使用している人がいましたね。療護施設で勤めていた30年くらい前ですが、施設内で疥癬、それもタチの悪い角化型疥癬(ノルウェー疥癬)が蔓延したことがありました。そこでたしか3ヶ月以上は毎日全員その入浴剤が入った浴槽に入浴し、何とか治したことがありました。あの入浴剤の匂いは忘れられません。

井口

まさに湯治、薬湯ですね。入浴環境を整えることも大切ですね。現在、多くの知的障害者施設が利用者の高齢化でハード面が銭湯などの大きな浴槽で車イスの方が入浴できないという問題に直面しているというお話を耳にすることがあります。私どももそういった課題を解決するために共生型短期入所を開始しました。利用者のニーズに合わせて安心して、リラックスできる入浴環境が求められますね。
3.11の東日本大震災の際、うちの職員たちもチームを組んで訪問入浴車で訪問入浴をしました。入浴された方々がみるみる生気を取り戻した姿に感動したと当時参加した職員たちは言っていました。
また元日本テレビアナウンサーの町亞聖さんは末期がんで寝たきりになったお母様の在宅介護をしている中、家族の力だけでは入浴が難しくなり訪問入浴を利用したそうですが、職員の対応から、「人の血の通っているケア」に感動されたそうです。お母様も始めは入浴を拒否されていたそうですが、リラックスして「もう出るの?」と残念がられたことが印象的だったと語ってくれました。食事同様に私たちの介護は生活場面での介護行為を通じて利用者にやすらぎのひと時と利用者との信頼関係を構築する機会なんだと思います。

風晴

本当にそうですね。これからは、入浴自体もIT化、システム化が進んで行くのではないかと思います。人間の満足度は効率化だけでは得られませんが、介護する側される側双方にとって、プラスになるのであれば、前向きに進んで行ってもいいのではないでしょうか。